観光産業を窮地に追い込むか、新型コロナ禍


  経済成長の追い風をうけて人の観光移動が激増しつつあった1976年、未来学者ハーマン・カーンは観光産業は遠からず世界最大の産業になると予言した。観光のすそ野の広さによる相乗効果は大きく、1988年版「世界旅行界の展望」は、観光はすでに世界最大の産業になったと宣言した。1990年には観光産業のアウトプットを算出する努力を続けて来た研究者や産業界によってWTTC (世界旅行・観光産業会議)が正式に設立され、以来観光産業の重要性をアピールしてきた。その後も途上国経済の発展に支えられて、国際観光、国内観光を含む世界観光は適宜ギアチェンジをしつつ高速運転を続けて来た。
  2010年台後半には、増え過ぎた観光のもたらす弊害が危惧されるようになり、2018年9月、UNWTO(世界観光機関)が過剰観光への対策の必要性を世界に訴えるまでになっていた(Over Tourism? Understanding and managing urban tourism growth beyondo perception)。
  2020年が明け、日本は半年後に開幕する予定の第32回オリンピック東京大会を目前にして沸いていた。そこへ降ってわいたのが新型コロナ禍である。突然のパンデミックで世界観光は惰性で走る時間的余裕もないまま、急激なエンジンブレーキがかかり、激しくきしみながら観光関連産業を窒息の危機に追い込んでいる。半年を経てもなお、アメリカや南半球などでは感染拡大が続いており、いったん収まったかに見えたヨーロッパや日本にも、再感染の波が押し寄せている。経済回復と防疫をいかに両立させるか、日本のGO TOトラベルの観光促進施策も開始時期を誤って、かえって業界を混乱に陥れている。新ウィルスは無限に拡大していく人間の行動に歯止めをかけるべくもたらされたのだろうか。
  旅行だけでなく、あらゆる人の交流を大幅に制限させてしまった今回の新型コロナ禍はいつどのように収束するのかまだ見えてこない。収束したとしてもコロナ以前に戻ることは難しいようだ。ここを何とか生き延び、必要なら計画的後退を含め、持続可能な観光を目標として、促進一本槍の方針は変更しなければならないだろう。 (7月29日)


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